25095人が本棚に入れています
本棚に追加
前を歩いていた二人が店の扉を開けた。店の看板には『青の鳥喫茶店』と書かれている。
「いらっしゃい。……おや、珍しい顔だね」
「おはようございます、クインネーさん」
「おはよー、クインネーさん」
まだほとんど客のいない店内で珈琲を入れていた初老の男──クインネーが、ユリアスと有舞を見て目を細めた。どうやら、ユリアスも有舞も彼と知り合いのようだ。
「そちらのは……会ったことがあるね」
「うっス」
レイトは声をかけられて小さく会釈をした。彼も店に来たことがあるらしい。
「そちらのは…………」
クインネーと目が合う。すると彼は目を見開いた。
「……もしや噂の“雪妖精”殿かい?」
リューティスは眉尻を下げた。この呼び名に関してはもう諦めた。冒険者の間だけではなく、商人にも、このような喫茶店の店員にまでも知られてしまっている。今更どうすることもできない。
「……その呼び名はあまり好きではありません。リュースとお呼びください」
「そうなのかい、悪かったね。……あぁ、好きなところに座ってくれよ。おすすめは窓際のテーブルだ」
ユリアスと有舞の後についていき、店の一番奥の窓際のテーブルの周りに並べられた椅子に腰を下ろした。窓の外に見えるのは、大通りに比べて静かな路地の光景である。
「何にする? おすすめは南の国東部産の珈琲よ」
有舞に差し出された品書きに目を落とす。珈琲だけでも様々な産地の物が取り揃えられており、さらにはそこに牛乳や生クリームや砂糖を加えたり、なんとアイスクリームを乗せたりすることもできるようだ。
.
最初のコメントを投稿しよう!