幕間

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  『──なんかね、師匠がライに冷たいの』  ローザンは、己の上官の弟子の口から不意に飛び出てきたその名前に、目の前が赤くなるほどの怒りを覚えた。  ギルド“月の光”零番隊副隊長であるローザンは、総帝であり零番隊の隊長である“白銀の刀使い”──本名、リューティス・イヴァンスの副官を務めている。リューティスの日常における動向を窺うため、こうして定期的に彼の弟子であるクレーネーから念話札を通した念話による報告を受けている。最近は彼が一人立ちをし始めたため、あまり多くの報告を受けていなかった。  ──ライ、というのは、リューティスの弟のことであろう。ローザンはライを含め、リューティスと血のつながった家族未満の者たちが大嫌いだ。先日、クレーネーと会ったとき、そのすぐ近くにいたリューティスそっくりの顔立ちをしたその姿をちらりと目にし、殺気を向けかけたくらいに大嫌いである。  リューティスの口から直接、過去に何があったのか詳しく聞いていない。しかし、彼の親友であり相棒の炎帝である一番隊隊長の口から、大まかな経緯は聞いていた。一番隊隊長はローザンに話すかどうか相当迷っていたようだが、自分に何かあったときにリューティスを支える者が欲しいからといって教えてくれたのである。  リューティスの肉親にも事情があったのだということは理解している。魔人が関わっていたことも知っている。だが、それでもローザンは彼らが許せないのだ。そして、そんな両親のもとで、おそらく彼の代わりに育てられたのだろう弟も、その存在すら許せない。  しかし、リューティス自身は彼らのことをどうとも思っていないことを知っている。会話をしていて、彼らに関することが全く出てこないことが、それを強く示唆している。彼は無口な方であるが、それでも時折、会話の中に一番隊隊長や国王が出てくることはあったのだ。だが、一方、肉親に関する話は、彼が彼らと和解した後も、まったく聞いていないのだ。 『師匠がライのこと、何とも思ってないのはわかるんだけど、……ライは師匠が旅に出る前はたまに会ってたっていってたんだけど……』  念話伝てのクレーネーの声は困惑していた。 .
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