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「この荷馬車だよ。基本的に護衛には歩いてもらうことになるんだけど……」
「問題ありません」
規模の大きな商会の隊商を護衛する際は、護衛にも馬が用意されていることが多々ある。それは、鮮度が重要となる荷を積んでいて早く移動したい場合や、賊に襲われる可能性の高い高価な荷を積んでいて万が一の時に賊から逃げるために足が速い方がいい場合など、商人の都合による。
だが、一人の商人を護衛する場合、対費用の関係か、護衛に馬が用意されていることは滅多にないのだ。
「では、行こうか」
ハンクスが荷馬車の御者台に乗った。馬が歩き始める。リアムとアズリーが荷馬車の両脇を歩き始める。リューティスは動き出した荷馬車の背後についた。
街の東の門の前には、長い列ができ始めていた。相変わらず、徒歩や馬用の列は短いが、馬車用の列は長い。
「あちゃー、わかってたけど混雑してるねぇ……」
「しょうがない、護衛が足りなくなっちゃったんだし」
「いつもならもっと早い時間に出るからね」
三人の会話に耳を傾ける。やはり、護衛を急遽募集したのは、何らかの理由で護衛が足りなくなってしまったからだったようだ。
「でも運がよかったわね、“雪妖精”が護衛についてくれるなんて」
「そうだね。ま、誰が他に護衛につこうと、おれたちの仕事はかわらないさ」
「そうね」
笑顔を交わし合うその二人の顔立ちは、やはり似ている。若干、目じり側が下がった眉や丸い目が特にそっくりだった。
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