九章 旅立ち

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  「──お帰り。あれ? なにかと思ったらシロロか」  シロロというのは、リューティスが見つけた白っぽい果実の呼び名である。この果実は中央の国の東部ではシロロと呼ばれているが、正式名称はポーツマンという。ポーツマンという名前の人物がこの果実を最初に見つけて、果物に己の名を付けたのだが、見た目と結びつかないその名は定着することなく、代わりにシロロという呼び名が定着したのだ。『シロロ』という言葉は古代オルス語で『雲のように白い』という意味だ。 「えぇ。……全員分取って参りました」 「いいの? ありがと」 「あ、ありがとうございます」 「ありがとうございます!」  三人の感謝の言葉に小さくうなずき、リューティスは“ボックス”から取りだした煉瓦で竈を組み、鍋を焚火の火にかけた。 「あちらに湧き水がありました」  リューティスは泉のある方を手で示す。 「あ、本当? 後で汲みに行くよ」 「ハンクス、おれが今から汲みに行くから」  リアムの言葉に、ハンクスは荷馬車の中から大きな鍋を取り出して彼に手渡した。湧き水といえど、飲む前に一度煮沸する必要がある。リューティスのように、入れ物に浄化の魔方陣を刻んでいれば話は別であるが。 「頼んだ」 「あぁ」  リアムはそれを受け取って、泉のある方へと消えていった。あの大きな鍋に三人分の水を汲んで、火にかけて煮沸消毒するのだろう。 .
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