九章 旅立ち

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   ハンクスは肩をすくめて器を受け取った。彼は商人だ。裏がどうであれ、彼ら商人にとって表向きの評判の良し悪しは大きな問題である。商人はがめついが、損得勘定は得意である。少しの追加報酬でその評判が多少でもよくなるのならば、当然、そちらを選ぶのだ。 「わかりました。ありがとうございます」 「うん、どういたしまして」  さらに“ボックス”から器を三つ取り出し、スープをよそい、リアムとアズリーにも差し出した。残った器に己の分をよそうと、ハンクスから差し出された固焼きのパンをちぎってスープに浸し、リューティスも食べ始めたのだった。  朝食を取り終えると、一行は出立の準備を始めた。といっても、商人であるハンクスは荷馬車に余計な荷物は積んでいないため、天幕などという代物は持っておらず、その状況になれている様子のリアムとアズリーも天幕は不要のようだった。リューティスの“ボックス”の中には天幕もあるが、リューティス自身も天幕を必要としていないため、一行は昨夜、各々防水性の高いマントやらなにやらにくるまって眠ったのだ。  この時期の森の中で天幕を使わずに野営を行うと、間違いなく夜露に濡れるのだ。冒険者が使用しているマントや外套はそういった状況を想定して作られており、防水性能が優れている物が多い。リューティスの灰色のマントもその例外ではなく、リューティスが一人で旅をしているときも、このマントにくるまって眠れば夜露に濡れる心配はない。  さらに言えば、そもそもリューティスは水属性の使い手であり、夜露に濡れたところで体調を崩すなど、よほど疲労がたまっているときでもなければまずない。  朝食の片づけをし、竈を形成していた煉瓦を“ボックス”に仕舞い、ほとんど消えかけていた焚火に土をかぶせて完全に消化してしまえば、準備は完了である。  一行は再び東へと向かって進み始めた。 .
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