十二章 模擬試合

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   金属同士がぶつかり合う甲高い音が響く。一人の男は獣のように咆え、もう一人の男はくぐもったうめき声を上げた。一際大きな歓声が上がる。  リューティスは観戦席にいながら、無数の視線を浴びつつ、舞台の上を眺めていた。  本日は闘技大会最終日──現在、Cランクまでの部の準準々決勝である。  昨日、リューティスは中央の国首都に戻り、こまごまとした仕事をこなした。それは、一昨日よりもさらに街中が大混雑し、身動きが取れそうになかったからである。  しかし、闘技大会最終日である本日は、依頼のため闘技場に足を運んでいた。闘技場の入り口で依頼書とギルドカードを提示すると、係員は慌てた様子で来賓が座るために用意された一区画のうちの一つの席に案内された。  当然ながら、出場者の意欲向上のため、舞台からよく見える席である。それも、係員は風属性魔法を使ってリューティスが観戦席にいることを闘技場内中に宣伝した。それゆえに、現在、リューティスには無数の視線が集まっているのだ。  フードを深く被っているが、冒険者の間にはリューティスのこの灰色のマントを含めた外見的特徴が伝わっているのだろう。それらの視線は真っすぐにリューティスに向けられていた。  フードで視線は遮られているが、それでもあまり気分がいいものではない。だが、これも依頼の一環である。こうなることはわかっていて依頼を受けて、この席に座ったのだ。自業自得である。 .
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