十五章 実技試験

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   春の朝の冷たい湿った空気を深く吸い込む。鍛錬を終えた後の程よい疲労感を感じながら、リューティスは青い刀を鞘におさめた。  一旦宿に戻り、それから宿の隣の食堂で朝食を取ると、眩しい朝日を浴びながら、ギルドへ向かって歩き始めた。  本日はSランク昇格試験の実技試験の日である。Sランク昇格試験は、それまでの昇格試験とは異なり、試験に一日かかると聞いている。魔力測定から始まり、魔法に関する試験と武器を用いた戦闘の試験に合わせて約半日かかるという。実技試験はそれだけではない。薬草や魔石に関する知識を問う試験や、簡易的ながら礼儀作法の試験まであるのだ。  それは、Sランクが大きな区切りのランクであるからだ。Sランクに昇格すると、二つ名がつけられ、知名度が一気に上昇する。リューティスのように、若くして高ランクに昇格すると、その後にSランク以上まで上り詰めることが多いため、Sランクに昇格する前に知名度が高いこともあるのだが、それはごく稀だ。  知名度の上昇に伴い、貴族から指名依頼を受けることも出てくる。そういったときに、最低限の礼儀作法を知っていなければ、最悪の場合、その場で打ち首にされる可能性すらあるのだ。  ギルド“月の光”支部に到着する。受付の長い列に並び、順番がまわってきて受付嬢にギルドカードを提示すると、昨日の筆記試験が合格であることだけ伝えられ、すぐに受付の奥へと案内された。 「しばらくこちらでお待ちくださいませ」  受付嬢は深々と頭を下げて、部屋のさらに奥の扉の向こうへと姿を消した。柔らかなソファーに腰を下ろしてしばし待っていると、不意によく知った魔力を感知した。そしてその魔力の持ち主は徐々にこちらに近づいてくる。  扉が外から叩かれた。立ち上がりつつ返答を返すと、扉が開かれる。 「大変お待たせいたしました。こちらが本日の試験官です」  受付嬢の後ろに立っていたのは、勿論、見覚えのある顔。 .
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