十八章 新たなる英雄

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   眩しい初夏の朝日を浴びて、手を止める。東の空を見上げれば、淡い紅色に染まっていた。  鳥のさえずりを聞きながら、深呼吸をする。吸い込んだ空気は少々湿っていた。──本日は雨が降りそうだ。  刀を仕舞い、一旦、宿に戻る。部分鎧を身に着けて、灰色のマントを深く被ると、宿を後にした。宿の近くの食堂に足を運び、朝食を注文した。  これから、しばらく適当に時間を潰し、冒険者たちが依頼を受けて出かけた頃にギルドに顔を出すつもりである。昇格試験の結果が公表される際に、目立つことをできる限り避けたいリューティスは、ギルド内に人が少ない時間を狙っているのだ。  昼過ぎにギルドに足を運ぶという選択肢もあったのだが、リューティスがSランク昇格試験を受けていたことは街中に噂で広まっており、合格をしていれば宴になることは皆わかっているのだ。そのため、昼過ぎにギルドに向かったのでは、宴の酒を期待した冒険者がすでに集まってきている可能性があるのだ。  珍しくゆっくりと朝食を取ると、そのまま紅茶を追加で注文し、しばらくの間、食後の時間を堪能した。それから、重い腰を上げて、ギルド“月の光”支部のある方へと歩を進めた。  最も混雑する時間を過ぎているため、大通りも人通りはさほど多くなかった。もう少しどこかで時間を潰したいところであったが、特に用事もない。しかたなくゆっくりと歩いてギルドへと向かった。  ギルド“月の光”支部内は比較的空いていた。リューティスが薄めていた気配を戻しながら受付の方へと向かうと、こちらに徐々に視線が集まり始めたのを感じた。 「おい、あれ、“雪妖精”だろ」 「結果公表か」 「ついにか」  ギルド内にざわめきが広がる。  受付の前には誰も並んでいなかった。受付嬢の前に立ち、フードを下ろしてギルドカードを提示する。 .
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