十八章 新たなる英雄

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  「おはようございます、リューティス様。お待ちしておりました。どうぞ、こちらを」  手渡されたのはギルド“月の光”の印璽を押された赤い封蝋で封をされた白い封筒だった。  腰の鞄から取り出した短剣で封を切り、中から真っ白な紙を取り出す。 『リューティス・イヴァンス殿 貴殿が冒険者ギルドSランク昇格試験に合格したことを、ここに記す。 また、貴殿に“雪妖精”の二つ名を授ける。  冒険者ギルド“月の光”マスター シャオ・タマラ  世界政府運営最高責任者 赤堀 扠月  地帝 井野 淑享』  そっけない文面に目を通し、ため息を呑み込んだ。やはり、あの呼び名はそのまま二つ名になってしまったようだ。 「……更新をお願いいたします」 「はい、かしこまりました」  ざわめきが消え去った。ギルドカードの更新を行うということは、すなわち、ランク昇格を示す。静寂の中、受付嬢は手早く手続きを行った。 「カードをお返しいたします。お確かめくださいませ」  己のギルドカードに目を落とす。ランクの表記はSに変更され、新たに二つ名が刻まれていた。  やはりこの二つ名は回避できなかった。もう少し男らしい二つ名がよかったのだが、もうどうにもならない。 「……問題ありません」 「ありがとうございます。……それでは、よろしいですね?」  その問いかけの意味はよく分かっていた。心情としてはよくないのだが、慣習なのだから仕方がない。 「……はい」  リューティスがうなずいたのを見た受付嬢は、すっとギルド内を見回した。 「皆さま。たった今、新たなSランクが誕生いたしました。所属“月の光”、二つ名“雪妖精”、リューティス・イヴァンス様です。新たなる英雄の誕生に祝福を!」  鼓膜が割れそうなほどの声が沸き上がった。突き刺さるようないくつもの視線に目を伏せる。正直、気まずかった。 .
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