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昼過ぎという中途半端な時間であるためか、街の中に入るための検問の列はできていなかった。乗合馬車らしき幌馬車が馬車用の出入り口で検問を受けている様子を横目に、徒歩用の出入り口へと向かう。
「……冒険者か。フードを下ろしてギルドカードを提示してくれ」
門番は国の兵ではなかった。おそらく、この地方の領主の私兵団の兵だろう。見覚えのない甲冑に身を包んでいた。
リューティスはフードを下ろし、ギルドカードを腰の鞄から取り出して、門兵に差し出した。しかし、門兵は中途半端に手を持ち上げた状態で硬直し、沈黙した。
「……あの」
「し、失礼した!」
門兵は慌てた様子でギルドカードを受け取った。甲冑の下から向けられていた視線がリューティスからそちらへと移るのを感じる。そして、門兵は再び硬直した。
「……あの」
「っ……し、失礼しました!!」
突き返されたギルドカードを受け取り、鞄に仕舞う。門番は焦った様子で手元の書類を捲った。その手が震えていたのは、見なかったことにした。
「も、問題ありません。こちらに署名を」
差し出されたのは、街に入った者たちが署名をした名簿である。名前が様々な筆跡で連ねられたそれの最後尾に署名をした。
「銅貨六枚を支払ってください」
腰の革の袋を取り外し、銅貨六枚を数えて門兵に手渡した。彼はそれを手元の木箱の中に入れる。
「こちらに魔力を流してください」
手渡された通行札に魔力を流す。刻まれていた麦の穂の紋章が銀に染まった。
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