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「……問題ありません。中にどうぞ」
「ありがとうございます」
リューティスは門兵に礼を告げて、街の中に足を踏み入れた。
麦の街、ピコスル。面積的には広いが、住民の数は少ない、田舎街である。
街の中は静かだった。この街は麦畑の中にあり、その住民のほとんどは麦を育てる農家かその麦を売買する商人のどちらかであり、この時間は街の外で忙しく働いている者が多いのだろう。
裸足で駆け回る子供たちやそれを眺める老人の姿がちらほらとあるくらいで、若者の姿はほとんどない。比較的魔物の少ない安全地帯にあるためか、冒険者も少ないのだろう。この時間ならばほとんどの冒険者は依頼で出払っていることもあり、武器を携えて防具を着て歩いているのは、リューティスの他は巡回の兵くらいだった。
どこか適当な宿を探しつつ、比較的大きな通りを歩く。数日前まで滞在していたギルド都市では、大通り沿いにいくつもの露店が立ち並び、早朝から夜中まで香ばしい匂いを漂わせていたのだが、この街ではそのような露店は全くといっていいほどになく、それどころか食事処もほとんど見かけなかった。
通り沿いに手ごろそうな宿を見つけて、足を踏み入れる。
「──いらっしゃい。一人かい? とりあえずそのフードを脱いどくれ」
受付に座っていたのは、小柄な老婆だった。彼女の言葉に従ってフードを脱ぐと、彼女はたくさんのしわに囲まれた小さな目を見開いた。
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