十八章 新たなる英雄

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  「あらぁ、べっぴんさんねぇ」  リューティスは男である。その言葉は男に対してかける言葉ではなかろう。しかしながら、反論したところで大した意味がないことは、これまでの経験でよく理解していた。 「……一人部屋で二泊、お願いしたいのですが」 「一泊銅貨四枚だよ」  腰から下げた革の袋から銅貨を八枚数えて取り出して、差し出されたしわだらけの小さな手の上にそれを乗せた。 「うん、間違いないね」  代わりに黒ずんだ銅製の鍵を手渡される。 「二階の、階段を上がって三番目、右手の部屋だよ。扉に鍵と同じ番号が書いてあるからね」 「ありがとうございます」 「朝食は朝の五時以降ね。八時を過ぎたら出せないから、寝坊せんように気をつけなね」 「わかりました。ありがとうございます」  ゆっくりとした口調で説明をしてくれた老婆に再度礼を告げて、リューティスは受付脇の階段を上がった。  右手の手前から三番目の部屋の前に立ち、鍵を開け、中に足を踏み入れる。小さくて質素であるが、丁寧に掃除された部屋であった。  ひとまず、身に着けていた部分鎧を脱ぎ、“ボックス”に仕舞った。冒険者が少ないこの街では、武装をしていると目立つのである。腰に佩いていた刀も元あった場所へと還した。いつでもすぐに手元に喚び出せるのだから、腰に佩いておく必要はない。街の外にいるときは、喚び出す手間や時間も考えて腰から下げているが、ここは安全な街の中である。 .
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