月夜の想い、一雫

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 湖の奥には白く大きな山、星々の点滅、琥珀色の月、全てを留めるように水面が全てを受け入れている。  光の欠片は湖の真ん中で止まり、儚げに漂っていた。何かを待っているのか。どこかへ向かうのか、わからない。  湖のほとりまで歩き、ぽつりぽつりと呟いた。 「こんな景色、もし、貴方と見れたなら、この感動を共有できたなら、素敵だったでしょうね」  さっきまで張り詰めていた気持ちが感動とともに解けてゆく。疲労や恐怖で抑えられていた気持ちが、涙に変わり溢れ出す。  湖を覗けばそこには自分の顔が映っていた。碧い瞳に涙を浮かべ、頬は熱を帯び赤くなっている。  長い黒髪が水面に触れる。髪の隙間からぽろりと落ちる雫が波紋を広げた。  波紋が鏡面を揺るがせ、熱い想いは水に溶けてゆく。  泣き言は言いたくないと思っていたのに、こみ上げる熱情が抑えきれずに溢れゆく。 「どうして先に行ってしまったのでしょう、私はまだここに居ます」  嗚咽を漏らし、咽び泣く。 「どうして、どうして。待って、待っていたのに…」  身体が震える。押さえつけようと、自分の身体を強く抱きしめる。 「こうなる事もわかっていました。でも」  しかしその身体は止まらず、さらにその感情を吐露し続ける。 「―――でも、寂しいのです。お側に、いたかった」  一つ一つ紡いだ言葉が、この空間に広がってゆく。 「伝えたい言葉も、ありました。その指先に、触れていたかった。大変な所へ行って冷えてしまった貴方の心を、抱きしめてあげたかった」  一度傾いてしまった杯は、もう戻すことができない。涙も、言葉も、焦がれる思いも。 「楽しかったのです。貴方を思い、過ごす日々が。楽しかったのです。貴方と一緒に、過ごした日々が」 「楽しかったのです。見送らなくてはいけなくても、未来のことを思えたから。楽しかったのです。最後の最後まで、貴方を好きでいられたことが」
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