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メアリはパラパラと教科書を読みすすめて、パタンと閉じた。
全部、入学前に勉強してきたことばかりだ。
入園試験にも出題されていたし、この辺はきっと復習を兼ねているんんだろう。
別の教科書を開いて目を通す。
こちらは実践向けの内容で、簡単なところで言えば、問診の仕方、聴診の仕方など。
その他には注射を打つ際の位置や針の刺し方、包帯の巻き方や、骨折や打撲の部位の固定の仕方なんかも載っている。
でも、これも全部ルパートさんの診療所で学んできたことで、特に目新しいことはなさそう。
昨日のオリエンテーションで、解剖学や術式について学ぶのは3年になってからと言われている。
薬学は1年からあるけど、どちらかといえば薬草の名前と効能、禁忌を覚えるのが重要視されていて、実際に薬草の配合なんかを学ぶのは来年になりそうだ。
3冊目の教科書をパタンと閉じると、メアリは教科書を読むのをやめて、窓の外に目をやった。
ふと見ると、昨日のナンタラ子爵ご子息が、従者に荷物を持たせて歩いている。
この学園では、従者や侍女を家から連れてくることや、世話をさせることは禁じられているはず。
早い時間だから目立たないとでも思ったのだろうか。
メアリはカタンと席を立った。
「メアリ、どうしたの?」
「ん?ちょっとね」
メアリは教室を出て、まっすぐ職員室に向かった。
担任のもとへ行くと、ちょっと驚いた顔をされた。
「メアリ・ハンブルク、何かあったか?」
「サンダー子爵家のダノンさんが、従者に荷物を持たせて歩いているのが見えたので」
担任は早足で窓辺に行き、ダノンが従者を引き連れているのを確認した。
「報告ありがとう。後は私の方で処理するから、君は教室に戻りなさい」
「はい。失礼します」
何食わぬ顔で教室に戻って、教科書を閉じていたイワンとアンヌと一緒に他愛もない世間話をする。
少しして、ダノンが自分で荷物を持って教室にやってきた。
メアリたちを見て、あからさまに嫌そうな顔をする。
隣の席で迷惑なのはこちらも同じだ。
ハンブルク家も爵位を持っているけれど、ああいった傲慢な貴族は大嫌いだ。
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