プロローグ

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 微かに──  音がする。  それは氷原を震わす異質な音──。  それは大自然の中にあって、とても似つかわしくない雑音。  方角は地平線の彼方。  あれは点?  そうあれは点だ。  音の正体は間違いなくあの点から発せられている。  空と氷の大地すれすれを点はかなりの猛スピードで移動していた。後から飛行機雲のような白い氷塵が濛々と渦を巻きながらついてゆく。  それは近づくにつれ四つになり、四つが四台であることがわかる。もう少し近づくと四台ともが同一の車であると判った。  車種は日本製のパジェロ。過酷極まりないラリーレイドを幾度も制覇し、どのような厳しい条件にも耐えることのできる伝説のオフロード車。  そのパジェロが隊列を組みながら凍りついた原野を突き進んでいた。  ほどなくして目的地に着いたのか、四台の車は氷地のど真ん中に縦列になって停車した。アイドリングはかけたまま。先頭車両の運転席からアジア系の男が一人降り立った。  耳当てのついた帽子を深々と被り、着ているカーキの防寒着はこれでもかという具合にぱんぱんにふくれあがっている。モンゴロイド特有の一重瞼を細め、手に持っていた双眼鏡から東の空を眺めた。     
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