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ちろちろと燻る薪ストーブ。
その小さな灯りだけが唯一であり、外界とは明らかに違った時を刻んでいた。
「ユウ……」
ニコライは沈黙を振り払うように呼びかけた。
ユウは顔をあげる。食卓の上に置いてある茶い薬瓶がストーブの灯りを反射し、光っていた。その向こう側いるニコライは、腕を組み、壁に寄りかかっている。青色の瞳がじっとユウを見つめていた。
「もうすぐきみはここを立つ」ニコライが言った。「向こうへ行ったら、今まで我慢してきたこと、やりたかったことをするんだ。そして、──いい人がいたら、その時は、その男と結婚する。よい家庭を築いて……そして、幸せな人生を歩んでほしい」
なぜ? なぜ行かないでって言ってくれない?
しかしユウはその言葉を呑み込んだ。小さなころから離れると決まっていたから、今さら言っても仕方がなかった。
代わりに出た言葉は、「今までだって十分幸せだったわ」だった。
「ユウ。もう時間だ……それを言いにきた」
それは無情に思える言葉だ──。
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