<2>月と呼ばれた少女

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 ちろちろと燻る薪ストーブ。  その小さな灯りだけが唯一であり、外界とは明らかに違った時を刻んでいた。 「ユウ……」  ニコライは沈黙を振り払うように呼びかけた。  ユウは顔をあげる。食卓の上に置いてある茶い薬瓶がストーブの灯りを反射し、光っていた。その向こう側いるニコライは、腕を組み、壁に寄りかかっている。青色の瞳がじっとユウを見つめていた。 「もうすぐきみはここを立つ」ニコライが言った。「向こうへ行ったら、今まで我慢してきたこと、やりたかったことをするんだ。そして、──いい人がいたら、その時は、その男と結婚する。よい家庭を築いて……そして、幸せな人生を歩んでほしい」  なぜ? なぜ行かないでって言ってくれない?  しかしユウはその言葉を呑み込んだ。小さなころから離れると決まっていたから、今さら言っても仕方がなかった。  代わりに出た言葉は、「今までだって十分幸せだったわ」だった。 「ユウ。もう時間だ……それを言いにきた」  それは無情に思える言葉だ──。     
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