<2>月と呼ばれた少女

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 先頭をニコライ。イーゴルがしんがりを務める。ユウは二人に守られるようにしながら走る。  ほんの一瞬、後ろを振り返る。ドアに寄りかかるオルガがひどく小さく見えた。これが、オルガを見た最後だった。  林を抜けた先に崩れかけた煉瓦倉庫がある。中にジープを停めていた。  運転はニコライが担当した。助手席にはイーゴル。そしてユウは後部座席に座った。ジープは倉庫を出ると町とは逆の方向へと向かった。街灯の無い雪道をひたすら進む。やがて黒い針葉樹が茂っている山道に入ると、ますます起伏が激しく険しくなった。  頼りになるのは天井にある満月だけだ。ジープは山を越え、ようやく反対側の開けた場所へとやってきた。そこは、その昔、漁村があった場所だ。建物は跡形もなく朽ち果ていてる。かつて港があった海岸にはびっしりと流氷が押し寄せ、海と陸の区別がつかないほどだった。  晴れ渡った昼間なら対岸に陸地が見える。たった十数キロの距離。しかし、この距離が永遠の別れに等しいのだ。  二コライとイーゴルはジープから降りると、枯草の繁みに分け入った。二人は振り積もった雪の中かから、白いキャンバスシートを引っ張り上げる。  覆い被さった雪がざっと滑り落ちた。下からスノーモービルが出てきた。ニコライはスノーモービルにまたがり、エンジンキーを回した。     
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