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スノーモービルは流氷の上を縫うように走る。
冷たいナイフのような空気が、よしゃなくユウの頬を刺しした。
こんなこと狂気の沙汰だとユウは思った。
自分達がいるのは洋上だ。氷の下は深い海が広がる。ルートを少しでも見誤ったら、間違がいなく転落してしまう。
ユウは必死になってニコライの背中にしがみついた。
三十分ほど南東に進んだところで、二人はスノーモービルを降りた。
「ここからは歩きだ」
ニコライはポケットから懐中電灯を取り出し、足元を照らす。ユウの手を握ると歩き出した。
月明かりが二人を導く。しばらくゆくと、闇の中に突如大きな塊が現れた。
砕氷船……?
「僕たちたった今、国境を越えたところだ」
ロシアと日本の境目。
二つの国の間にある見えない線──。
ユウは不安かられ、ニコライを見る。
灯りがちらちら揺れるのが見えた。
そばまで来ると、紺の防寒に身を包んだ東洋人の男だということが分かった。
「シラサギ ユウさん?」
聞きなれない自分の名に違和感を覚えつつ「はい」とだけ返事をする。
ニコライはポッケトから手紙を取り出りだした。
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