<2>月と呼ばれた少女

9/11
226人が本棚に入れています
本棚に追加
/584ページ
 スノーモービルは流氷の上を縫うように走る。   冷たいナイフのような空気が、よしゃなくユウの頬を刺しした。  こんなこと狂気の沙汰だとユウは思った。  自分達がいるのは洋上だ。氷の下は深い海が広がる。ルートを少しでも見誤ったら、間違がいなく転落してしまう。  ユウは必死になってニコライの背中にしがみついた。  三十分ほど南東に進んだところで、二人はスノーモービルを降りた。 「ここからは歩きだ」  ニコライはポケットから懐中電灯を取り出し、足元を照らす。ユウの手を握ると歩き出した。  月明かりが二人を導く。しばらくゆくと、闇の中に突如大きな塊が現れた。  砕氷船……?  「僕たちたった今、国境を越えたところだ」    ロシアと日本の境目。  二つの国の間にある見えない線──。  ユウは不安かられ、ニコライを見る。  灯りがちらちら揺れるのが見えた。  そばまで来ると、紺の防寒に身を包んだ東洋人の男だということが分かった。 「シラサギ ユウさん?」  聞きなれない自分の名に違和感を覚えつつ「はい」とだけ返事をする。  ニコライはポッケトから手紙を取り出りだした。     
/584ページ

最初のコメントを投稿しよう!