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「イーゴルから預かってきた。向こうに着いたら、シラサギさんに必ず渡してほしい」
それからユウを抱きしめた。
左右の頬に繰り返し別れのキスをする。
本当に?
本当にこれでお別れ?
別れの瞬間なのに、心は理解できないのだ。
ニコライはユウの顔を見つめ、微笑んだ。ゆっくりと、ユウを離し、それから断ち切るように踵を返した。
「行方不明の女の子を保護しました」
日本人の男は胸についている無線に向かって話しかけている。
ノイズと共に了解という返事が返ってきた。
「さぁ帰りましょう」
別の男がユウの腕を取る。後ろ髪ひかれつつ来た道に背を向けた。
ユウは新しい名前と共に一歩を踏み出した。
船の真下に着く。
金属製の縄梯子を登るよう促された。
「滑るから、気をつけてください」
男は日本語で話しかける。
ユウは黙って頷いた。
両手で縄梯子を掴むと、慎重に登る。最上段までくると待機していた男に介助してもらいながら甲板の上に降り立った。
男は毛布をユウの肩にかける。
ユウはニコライを見ようと振り返る。
流氷の上を歩く兄の姿が見えた。
国境を越えた当たりで立ち止まり、兄はこちらに向かって大きく手を振った。
「コリャ……」
ユウは小さく手を振ることしかできなかった。
頬にニコライの冷たい唇の感触がいつまでも残っていた。
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