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嘘は言っていない。全部本当のことなのに──
『バーバ・ヤーガが怒られている』
バーバ・ヤーガとは誰でもが知っているロシア民話に登場する魔女のことだ。中途入学したユウの黒髪をバカにしたあだ名だった。
不幸なことに。こそこそとした内緒話しは、ユウにとってはなんなく聞き取れる。教室の後ろら、女の子たちの笑い声が聞こえてきた。
ユウは動揺し、頭が混乱する。笑った子たちに向かって睨み返した。
生徒たちは笑をやめて、さっと視線をそらす。
おまけに、頼みの綱であるローザ・アレクセ―ヴナ先生は、もめ事を解決すには年を取りすぎていた。いじめっ子はほっておかれたのだから、クラスの陰湿な雰囲気は黙認されたに等しかった。
ユウはこの有り難くない蔑称に傷つき、ひたすら無視するしか対処の方法が思いつかなかった。
「仕方ない……」
先生は大きなため息をつくとおもむろに自分の机に腰掛けた。引き出しの中から便箋を取り出し、さらさらと手紙を書き始めた。
書き終わると万年筆を置き、紙を丁重に折りたたむ。引き出しから真っ白い封筒を取り出した。
クスクス──
少女たちの押し殺した笑が聞こえる。
「この手紙をお家の方に渡すように」
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