<3>月の母と五番学校

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 嘘は言っていない。全部本当のことなのに── 『バーバ・ヤーガが怒られている』    バーバ・ヤーガとは誰でもが知っているロシア民話に登場する魔女のことだ。中途入学したユウの黒髪をバカにしたあだ名だった。  不幸なことに。こそこそとした内緒話しは、ユウにとってはなんなく聞き取れる。教室の後ろら、女の子たちの笑い声が聞こえてきた。  ユウは動揺し、頭が混乱する。笑った子たちに向かって睨み返した。  生徒たちは笑をやめて、さっと視線をそらす。  おまけに、頼みの綱であるローザ・アレクセ―ヴナ先生は、もめ事を解決すには年を取りすぎていた。いじめっ子はほっておかれたのだから、クラスの陰湿な雰囲気は黙認されたに等しかった。  ユウはこの有り難くない蔑称に傷つき、ひたすら無視するしか対処の方法が思いつかなかった。 「仕方ない……」  先生は大きなため息をつくとおもむろに自分の机に腰掛けた。引き出しの中から便箋を取り出し、さらさらと手紙を書き始めた。  書き終わると万年筆を置き、紙を丁重に折りたたむ。引き出しから真っ白い封筒を取り出した。 クスクス── 少女たちの押し殺した笑が聞こえる。 「この手紙をお家の方に渡すように」     
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