暴 発

1/1
503人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

暴 発

 その人間は、スラリとした長身で、海外の古代彫刻のような筋肉質な身体。鴉のような黒い髪に、薄い琥珀色の瞳で大和を見下ろしていた。 「…ふぅ…大丈夫か? 今、外してやる」  浜木を殴ったと思われる拳を摩りながら、男は大和の手枷を外す為に、その側に膝をついた。 「はぁ……はぁ……ロ…キ……?」  辺りには大和の匂いが立ち込めている。熱っぽい瞳に見つめられると、男はその唇を貪りたい衝動に駆られたが、すんでのところで耐え、手枷を1つ外した。 「ハ…ハ、人間の指ならこんな細かいのも外せる。それにしても、ヤマトの匂いが…これほど強烈だとは…」  月の影響で完全な人間になったロキには想像以上にΩの誘惑がキツく、抱きたい衝動を抑えると身体の中に太陽を抱え込んだかのような熱が溜まる。 「ポケット…僕のズボンの……ポケットに…抑制剤が…入ってる」  大和も何とか理性を維持し、目の前の美しい男と繋がりたい誘惑に耐えると、起き上がってもう片方の手枷は自分で外した。  ロキは落ちている衣類を大和に渡すと、自分に殴られ喪心している浜木に、大和が着けられていた手枷を着けた。  ホッと一息ついて振り返ると、大和がまだ服を着ずに震えている。 「どうした…さっさと服を着て、お前はお前の居場所に帰れ」  住む世界が違うとでも言うように、冷たく突き放す言い方をしたが、大和を帰る気にさせる効果はなかった。 「また…抑制剤が…効かない……。このままじゃ、治らない…………ロ…キ……」  息を荒げ助けを求めるように訴えられると、しばらく悩むように耐えていたロキだったが、 「…クソッ……」 と、大和の腕をグイッと引っ張って抱き寄せ、その柔らかな唇を自らの唇で覆った。  人間の舌で大和の口内を念入りに調べあげ、その中で絡め合う。昼間は出来なかったキスにうっとりと酔う大和を見て、ロキは己の中で何かがジワりと変わるのを感じた。  今まで経験した事の無い執着…この人間の側に居たい、自分だけの物にしたいという強い欲求。狼の部分が望む[群れたい]という本能が目を覚ます。  大和を後ろから抱きしめると、そのまま抱き上げて立ち上がった。 「わ…」  大和の足を地面から離し、近くの大木横で降ろすと、大きく張り出した木の根に手をつかせ、手背に重ねて指を絡ませる。  月が大和の白くしなやかな背中を光らせ、柔らかい髪がロキの胸に擦り付けられる。  匂いと口付けだけで目覚めたロキの雄塊を、大和の足の隙間に何度か押し入らせると、大和は引き締まった凹みのある尻を高く掲げて、焦燥のままに地を引っ掻いた。 「ロ…キ……はや…く……」 「…っかやろ……煽ん…な…」  ロキは自分の手を添えて大和の入口に自身をあてがうと、数時間前にも入った穴に再び入り込んだ。  ゆっくりと温かい肉壁を押し広げ侵入すると、胸元で大和が息を荒げて呻く。 「…ロキ…の…熱…い………溶…ける」  純粋な人間の大和より、獣の血が入ったロキは少し体温が高いからかもしれない。大和は本当に内側から溶かされている心持ちだった。 「大丈夫か? 飛ぶなよ…」  ズブズブと行き止まりなく根元まで丸呑みにされたロキが優しく問うと、大和は享楽に溺れた瞳で振り返った。 「気持ち…い…い……」  ロキの肌が鳥のように毛羽立つ。しっかり腰を抱き寄せ脚を開かせると、腹中に閉じ込めた太陽を解き放つように、湧き上がるエネルギーを大和の小さな背中から何度も送り込んだ。 「んっ……あっ……あっ……はっ……」  静かな月夜の森に大和の掠れた声と、肌がぶつかり合う音がリズミカルに響く。必死に木の根を掴み耐える姿とは裏腹に、中はロキが出て行くのを逃がさないとばかりに、ねっとりとまとわりつき食い付いてくる。  大和の汗とともに強くなるΩの匂いで、ロキの理性が掻き消えていく。腰の動きを速めると、大和の中の熱を帯びた塊が当たるようになってきた。そこを内側から撫で上げると、大和が可愛い悲鳴をあげる。追い詰めるように大和の陰茎を手で包み込み、摩擦する。 「ロキッ……はっ……はっ……んんっ……」  焦点が定まらないまま、与えられる喜悦のみを感じて鳴く大和の、首筋だけが浮き上がって見え、ロキは衝動を抑えること無くその首に歯を立てた。 「んーーっ‼︎」  ロキの手の中に熱い体液が放たれ、大和の身体が弓なりに反って痙攣する。大和の中がギュゥッと締まり、ロキを捕まえ縛り上げる。堪らずロキも大和の中に出すと、その刺激でまた大和が震えた。ぐらりと大和の足元が崩れ、慌てて抱きとめる。  シンと静まり返る山奥で、洗い呼吸と風の音だけが聞こえていたが、しばらくしてロキが呻いた。 「…また外玉にするの忘れた……」  はーっと自嘲の溜息をつくと、腕の中で虚ろな目をして脱力する大和の脚を上げ、結合部を跨がせて向き合った。腹に大和を乗せて木の根に寄りかかり、数分もすると、自然にロキの根元が収まりスルリと抜けた。  自由になったロキは、大和の汗に濡れた前髪をかきあげ、その髪に軽いキスをする。と、大 和はゆっくりと茶色い目を開けて、ロキの首に腕を回した。  その時、横からガシャンという金属音がした。意識を取り戻した浜木が、手枷がついたまま猟銃を構えている。安全装置を外し、引き金に指を置くと、ゲスな笑みを浮かべた。 「その銃は使わない方がいいぞ」  ロキが落ち着いた低い声で注意するも、浜木はイカレた目をして照準も合わせずに引き金を引いた。とっさにロキは大和に覆い被さる。  ズガァーーーーン!  こもったような金属音の後、浜木の呻き声がこだました。  慌てて自分の上に被さるロキを見る。大和の背中に冷たい汗が伝い、心臓が止まったかのように自分の指先が冷たくなり、震え始める。急いでロキの背中に手を回してみるが、動かない。届く範囲を念入りに触って確かめたが、特に怪我とかは無さそうだった。 「あんま撫で回すな、くすぐったい」  昼間と同じ言葉をかけられ、大和がハッとして横を向くと、イタズラっぽく笑う金色の瞳と目が合った。ホッと脱力すると、ロキは起き上がって浜木を見た。浜木は暴発した銃に肩をやられて呻いている。 「だから使わない方がいいって言ったんだ。月が出る前に銃を突きつけられた時に、噛んで銃口を歪めておいた。ハーブだかキノコだか知らねーが、ラリって銃口の確認もせずに撃つんじゃねーよ」  枯れ葉の上をのたうち回っている浜木を嘲笑すると、ロキは大和に服を着るよう促した。 「コイツの仲間が来るらしいから、コイツのことはそいつらに任せよう。お前はそれを着たらすぐに帰れ。オレもすぐにここを発つ」  ロキは自分で自分の言葉を後悔した。小さく弱いくせに、怖がるどころか何故か獣の自分を信頼して2度も身体を許した大和。離れ難い想いを抱きつつあったが、狼が人間社会で生きていける筈が無いと腹を据えた。  しかし、大和はまた違った決意を固めていた。 「僕の相棒になってよ。一緒に行こう。所長にも許可は貰ってきたよ」  ロキは難しい顔をして大和に問うた。 「なぜオレなんだ? 犬なんて他にいくらでもいるだろう。こんな…問題だらけの狼をなぜ選ぶ?」  大和は服を着ながら考えると、落ち着いた声で答えた。 「相手の目を見れば、おおよその人となりが解る。この狼は信頼できる…初めて目を見た時そう感じただけ。今も、身を呈して守ってくれたろ」  クリクリとした大きな目を細めて微笑みながら、そう言ってロキに歩み寄ると、腰に腕を回して、その胸元に顔を伏せたままポツリと呟いた。 「今ので覚悟を決めた……」  大和の耳が赤く染まっている。それを見た己の気持ちを知り、ロキもまた道を決めた。 「わかった。お前を主としよう。オレを連れて行け」  大きく身震いして狼の姿に戻ると、浜木のところへ行き、その肩を押さえつけた。骨折でもしているのか、痛みに叫ぶ浜木の目を睨みつけ唸ると、浜木は縮み上がって小便を漏らしながら、もう2人には関わらないことを誓った。  側に落ちていた浜木の車の鍵を拾って大和に渡すと、浜木が来た方へ匂いを辿って車に行き着いた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!