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 地面にこびりつくような木の葉がカサカサと音を立てながら舞っている。風に乗る木の葉や砂塵が透明な風を彩る。可視化された風は円を描いて吹き抜ける。この街では見慣れた風景だが、十年ぶりに帰郷した僕はどこか気まずさを覚える。  「おっ。久しぶりじゃねぇか?帰ってたんか。」  突然の背後からの親しみを込めた声に驚き体が硬直する。  あぁ。と恐らく相手から見たら引きつっているであろう笑顔で軽く会釈をする。  いつもこうだ。上手くいかない。ほんとに申し訳ない気持ちはある。その反面相手を傷つけたくないという思いもある。その板ばさみになってぎりぎりと苦しむ心がこの曖昧で隠しきれない態度として現れる。  息苦しい重たい空気の中相手が口を開く動作が嫌にゆっくりとはっきりと目に映る。  やめてくれ。  その言葉を言うのは。  お願いだから。  「俺のこと、覚えちょる?」  僕の想いは伝わらず相手はその悪魔の質問を直球で投げつけてくる。しかも大抵本人には悪気はなくニコニコと笑っているものだ。今回も例に漏れずそうだった。     
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