第一話【村の掟】

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   この村にたどり着いたのは、【事件】が起きる日の三日前のことだった。  地図を頼りに旅を続ける僕が、迷いながらも辿り着いた小さな村。名前は【エリアル】。  このエリアル村は水の精霊の加護を受けているらしく、その精霊の名前がエリアであることからその名が付けられたそうだ。  そんな話をエリアル村の村長であるアズベルさんから聞きながら、僕は泊らせてもらう宿屋まで案内してもらい、部屋に着いてからもしばらく村についての話を聞いていた。 「……へぇ、だからこの村では雨がよく降るんですね」 「そうです。水の精霊エリア様のおかげで、他村で抱えている水不足の心配もなく、こうして平穏に暮らせているのです。  だから私たちは毎日朝を迎えると、エリア様に祈りを捧げ、感謝の想いを伝えているのですよ」  そう言うと、アズベルさんは僕がこれから寝泊まりする部屋の真ん中で祈りを捧げ始める。  時間にして朝の七時から八時の間。  その時間の間に祈りを捧げるのがこの村の掟らしいが、現在の時刻は夕方の五時。祈りを捧げる時間にしては、余りにも遅すぎる。 「──この村に来たからには、旅人であっても祈りを捧げてもらうのが掟でして。申し訳ありませんが……」 「ええ、もちろんわかってますよ。是非とも教えてください。祈りを捧げる際の作法を」  まぁ、察してはいたので僕はそのままの態度で応じる。  アズベルさんが祈りを捧げ始めたのは僕に対しての教示だ。  毎朝、こうして祈りを捧げるのがこの村の掟なら、それに従うのが道理というものだ。
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