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以前滞在していた村で聞いた、雨乞いの儀式。
年端のいかない程の少女を贄とし、水の精霊が祀られる泉へと身を投げさせる──といったものだ。
聞いて楽しいものではないが、それがごく一般的な雨乞いの儀『だった』そうだ。
まぁ、年端もいかない少女を贄とし雨乞いをする、なんていうのはもはや古典的方法である。
『だった』というのも、それが行われていたのも過去の話であるからだ。
「……こうして祈るだけで雨を降らしてくれるなんて。他村では考えられないほどの加護を受けてらっしゃるんですね、この村は」
「──私としては、贄の一つでも捧げてやりたいと言うのが本心ですよ。祈りだけでは、やはり水の加護を与えてくださっている精霊様への対価は微々たるものでしょう。
この村でも、雨乞いのために贄を捧げるといった儀式はありました。それも今となっては遙か昔──二十年ほど前の話です」
そう言うとアズベルさんは、窓の方へと目を向け遠くの方を眺めていた。まるで、昔の事を思い出すように。
「……しかし、エレンさんの言った通り、祈りだけで水の加護を与えてくださる精霊様はこの村には無くてはならない存在であるのは事実。
私のような古くさい考えの人間はごく少数ですので、祈るだけでなく贄を用意させようと考える者など、私ぐらいのものですよ」
祈りを終えたアズベルさんは、立ち上がり様にそう話した。
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