序章【青い涙は黒く染まる】

2/9
前へ
/174ページ
次へ
【涙に襲われる】という体験をした人は、この世界にどれだけいるだろうか。  涙に襲われる。  ただそれだけ聞くと、涙を流す者が、なぜ涙を流しているかがわからない──故に、想像力を働かせ、『なぜ涙を流すのか』その理由を考えるはずだ。  では、どういった状況に陥ると人は涙を流すのか。  例を挙げるとすれば、恋人に別れを告げられたとか。  家族が不慮の事故や病気で亡くなったとか。  一番分かりやすいのが怪我をした時だろうか。  転んで膝を擦り剥き子どもが泣いてしまうのは、突然の出来事に驚いてというのと同時に、『痛み』が生じるからだ。  子どもでなくとも痛みに涙を流すのは、人間なら当たり前の話だろう。  まぁ、理由なんてものはいくらでもあるし、理由そのものを生み出すことだって可能だ。  というより、人間は特段理由がなければ涙を流せないというワケでもない。  もっと言えば、涙を流させるようなイベントが発生せずとも涙を流すことは可能なのだ。  要するに、嘘の涙。  もしこの話を聞いている人がいるとすれば、嘘の涙に騙された経験がある人は決して少なくはないはずだ。  しかし。それはあくまでも『人間』に限った話で、『人外』である存在がそうであるかについては、人間である僕の方から「違う」と否定できるものでは無かった。  何故突然人外の話が出てくるのかって? 簡単な話だ、今まさに目の前にいるからだ。 「──エリア、頼むから話を聞いてくれ。僕は何も君を泣かせるためにここに来たんじゃない。君を救いに来た。だから──」 《うるさいッ……! お願いだから近づかないで! 早くソイツをここから消し去って!!》  僕の声をかき消すほどの怒号と、正面から放たれる無数のつぶて。  遮られた言葉の先を紡ぐことは許されず、彼女の放つ青い涙により喋る権限を奪われてしまう。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加