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「ああ、お恥ずかしいところを……」
「いえいえ。……それにしても、皆さん仲が宜しいんですね。各地を巡って旅を続けてきましたが、村を取り纏める村長とそこに暮らす村人の間には、結構溝があることの方が多いですから。
私もかなり苦労しましたよ、ただの旅人のはずなのにそういった厄介ごとに巻き込まれて。けど、この村ではそういった喧噪も起きないし、皆が家族のように暖かい」
食器を集めながら話していると、店員が駆け寄ってきて箒でさっさと片付けてしまった。
壊した食器についても「気にしないでください」とだけ告げて足早に去って行った。
近くで飲んでいた村の人達からも「悪いのは村長なんだ、アンタが気にするこたぁねぇさ!」と、かなり酔っている様子で肩に手を回しながら絡んできた。
その絡みはかなりうざったらしく感じたが、やはりこういった雰囲気は今の混沌としたご時世では中々見られるものではなかった。
各地を……と言ってもまだ数カ所ほどしか回っていないが、それでも足を運んでいった旅先のどれもが、村に住む民と、その村を収める長との間に確執があるのは事実だ。
「まぁ、確かに他の村と比べると珍しいかもしれませんね。言い争うような問題も心配も起きませんから。どうやら水の精霊の加護とやらは、世にはびこる魔物どもにも有効なようで。
王都からもギルドからも離れた場所にありますが、魔物どもに襲われたことはありませんね」
そう言い切ると、僕の肩に手を回していた老人がアズベルさんの話に同調し会話を弾ませてゆく。
二人から距離を取り、一人厨房へと目を移す。
人が少ないのか、先ほどから一人の店員しか見ていない、そんな気がした。
そんな風に思いながらも、僕は一人エリアル村以外の、辺境の地にある村々の魔物による被害とやらを思いだしていた。
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