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「エリア、僕の話を聞いてくれ。このまま泉が汚されていくのは見たくないし、君を闇に閉ざしたくないんだ。
あんなヤツの操り人形になったまま、全てを奪われたままでいいのか?
家族も友達も、君から全てを奪った男が、今まさにここにいるんだ。
君がそのまま闇にのまれれば、それはまたあの男の思惑通りになる。
だけど今ならまだ間に合う。まだその暗い闇から抜け出すことが出来る。
だからエリア。頼むからもう一度……!」
──僕の手を握ってくれ。
言葉を続けるよりも早く、瞳から零れ落ちる『黒い』涙の強襲により、言葉は寸断される。
激情のゆくままに全てを破壊せんとする彼女の姿は、もはや『精霊』ではなく一端の『魔物』だ。まだ元の姿を保っているようだけど、このままだと確実に闇にのまれる。
《うるさい、うるさい、うるさい!! お願いだから消えて……イヤなの、思い出すのっ……。消えて、消えて……! 今すぐ消えろぉぉぉ!!》
咆哮と共に、雨を降らせるかの如く真上から真っ逆さまに飛来する無数もの礫は、確実に足場を奪ってゆき、そして逃げ場を失った僕は見事に貫かれる。
「──ッ!」
痛みに声を荒げることすらも叶わずに、貫かれた拍子で勢いついた体を、そのまま前へと押し出して残りの礫との直撃を何とか免れる。
体を引き摺りながらも、盾となる巨大な木の陰へと隠れ、貫かれた箇所を確認する。
「右肩に左腕の上辺り。それと最後に左の腿か……。あの攻撃からこの程度の傷に抑えられたんなら及第点でしょ。動くとめちゃくちゃ痛いけど……!」
笑って誤魔化そうとしてみるが、痛みは何よりも正確に物を言う。誤魔化しがきかない。
痛みを緩和させるための魔法があるが、僕は魔法を使えない。故にこの痛みとともに、彼女を救い出すために、再び立ち上がらなくてはならなかった。
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