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「なに被害者ぶってるんだ、僕は。あの男を連れてこなけりゃ、エリアが苦しむことも無かった。
記憶はねつ造されたまま。だけど辛かった過去はずっと忘れられていた。……これは僕の独断だ。僕の勝手な偽善なんだ」
昨日までは普通に話せていた彼女をここまで狂わせたのは、僕が原因でもある。
故に彼女からの攻撃に対し「やめてくれ」だなんて、誰が言えようか。
これはむしろ当然の反応だし、受けたこの傷も全て僕に対する罰だ。
痛いなんて泣き言を垂れる暇はない。彼女の痛みは、これの比じゃ無いことぐらいはわかっているつもりだ。
彼女を狂わせた原因。
要するに、彼女の心を乱す何か──正確に言えば全ての元凶──を、この場に連れて来た事が、こうした事態を引き起こすトリガーとなった。
その元凶であるはずの呪術師は、どうやら自慢の術により姿をくらませているらしい。何とも呪術師らしい卑怯な逃げ方だ。
もっとも、逃げられるような状況で無いことは、向こうも気付いているだろうけど。
──まぁ。どれだけ取り繕っても、僕が引き金を引かせたのも同然であることに変わり無い。
記憶を失い、失ったままで過ごしていればそれもそれでアリかもしれない。
しかし。愛する家族も友人も、そして何よりも『自分を殺した相手』が平然と生きていて、なお且つ彼女が暮らしていた村で普通に生活していたことも知らずに、都合の良い道具として使われるのは……あまりにも残酷だろう。
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