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自分勝手なのはわかってる。
けれど、僕の立場からして見逃せるものではなかったし、彼女と話してきて、やはり彼女はここに居るべきではないと『彼ら』がそう言ってくれた。
何より、僕自身もそう思ったのだ。
だったら、僕がここで立ち止まる訳にはいかない。
怖じ気づきそうになる心を奮い立たせ、小さな水溜まりを踏みしめるとそのまま前へ出る。
──瞬間。見開かれる彼女の黒々とした瞳に、決心したばかりの僕の肉体は、すっかり前へ進むことを拒んでいた。
《エレン、お願いよ……。痛いの、苦しいの……》
「──ッ」
交差した視線を勢いに任せて逸らす。懇願する声で名前を呼ばれてしまうと、決意が揺らいでしまいそうになる。
叶うのならば、今すぐにでも消えてやりたい。
こんなにも苦しい表情を浮かべる彼女を見たかったわけじゃない。
苦しませるために、こんなところに来たわけじゃない。
今からでも引き返せる──心の中での呟きに、強く頭を振ってその考えを払拭する。
引き返した所でどうなる?
彼女をここまで狂わせておいて今さら何を。
責任すらも取れない癖に、彼女をこんな目に合わせたのか? ──違うだろう。
自分がここに来た理由を自身に問いただしながら、狂いゆく彼女を見やる。
僕には対した力もない、魔法も扱えなければ力もあるわけではない。
各地を巡り、旅を続けてきただけのしがない旅人である僕が、彼女と真正面から対峙した所で敵わないだろう。
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