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 悩んだ後、私は人生初めての家出を試みた。  と言っても、ささやかで大人しいものだ。  行き先は最近できたばかりの友人の家だ。以前では考えられなかった。漁師の家だった。  たまたま私が海岸でぼんやりしているところに出くわして、昨日はどうしたのか、と声をかけてきた後、私の顔色の悪さを見て何かを察したのだろう。  私は父と喧嘩をしたのだと言った。すると同い年の少年は、それじゃ家に来いと言った。曰く、自分の家はたまり場と化しているからよくあることだと。彼はただ陰気な奴が気に食わないだけで、人並みに話せる相手には親切だった。  大人しくついていった後、電話を借りて、父に帰らないことも伝えた。そういうところが私の生来の臆病さであり、けれどそう簡単には治らない性質だった。  父は多くは語らなかった。気が済んだら戻ってこい、という旨を伝えられて電話は切れた。そういうところも、自分の子どもっぽい情けなさを浮き彫りにするようでいやだった。彼の家に大人の影が見えなかったので聞くと、父はずっと沖に出ており、母は今日戻ってこないだろうとあっさり告げられた。そんな家もあるのか、と新鮮だった。     
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