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Nと出会ったのは中学生の時。私はまだ井の中の蛙、大海を知らない田舎者だった。
十四歳の夏が始まる頃、Nは船で島にやってきた。ご自慢のキャンピングカー、奴の根城ごと船に乗り込んでいたのだ。
たまたま波止場にいて、大きな車に目を丸くしていた私に、やっぱりあの時もコーヒーをすすりながら真っ白な歯を見せた。
「やあ、我が家はお気に召したかな?」
私は後ずさり、俯いた。父から昔もらったカメラを持つ両手が震えた。撮ることも忘れて見入っていた、そんな現場に声をかけられたことに萎縮した。
Nは声も文句なしだった。ハスキーで、スマート。はっきりしていて聞き取りやすく、それでいて心地よい余韻が耳に残る。
「車でね。旅をしているんだ。あちこちを」
奴は私の態度にお構いなしに、人なつっこく片手を差し出した。
「ジョナサン・ランバートだ。君は?」
――ああ。青い海を背に、白いキャンピングカーに乗って。
あの男はやっぱり何度思い出しても美しかった。
「……ジョーイ」
「そうか、ジョーイ。いい名前だ。俺と同じJ。それに素敵なカメラだね」
男はぽん、と私の肩を叩いた。いかにも自然に、当然のことをするように。
あいつはやっぱり格好良くて、私はどこまでも惨めだった。
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