2/3
前へ
/29ページ
次へ
 Nと出会ったのは中学生の時。私はまだ井の中の蛙、大海を知らない田舎者だった。  十四歳の夏が始まる頃、Nは船で島にやってきた。ご自慢のキャンピングカー、奴の根城ごと船に乗り込んでいたのだ。  たまたま波止場にいて、大きな車に目を丸くしていた私に、やっぱりあの時もコーヒーをすすりながら真っ白な歯を見せた。 「やあ、我が家はお気に召したかな?」  私は後ずさり、俯いた。父から昔もらったカメラを持つ両手が震えた。撮ることも忘れて見入っていた、そんな現場に声をかけられたことに萎縮した。  Nは声も文句なしだった。ハスキーで、スマート。はっきりしていて聞き取りやすく、それでいて心地よい余韻が耳に残る。 「車でね。旅をしているんだ。あちこちを」  奴は私の態度にお構いなしに、人なつっこく片手を差し出した。 「ジョナサン・ランバートだ。君は?」  ――ああ。青い海を背に、白いキャンピングカーに乗って。  あの男はやっぱり何度思い出しても美しかった。 「……ジョーイ」 「そうか、ジョーイ。いい名前だ。俺と同じJ。それに素敵なカメラだね」  男はぽん、と私の肩を叩いた。いかにも自然に、当然のことをするように。  あいつはやっぱり格好良くて、私はどこまでも惨めだった。     
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加