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 父は穏やかで優しかったが、その分男らしさにどこか欠けていた。安いジーンズ、野暮ったい眼鏡。見た目でわかるイケてなさ、コミュニケーション能力の低さ。  ただ一応、よく見れば顔立ちは整っている方だった。それは私自身にも遺伝している、彼の数少ない客観的な強みだった。……これは後で知ったことなのだけど。  Nが良いロマンチストなのだとしたら、父はまさにそう、悪いロマンチストだ。  現実にいまいち足がついていおらず、優柔不断――そういう夢を見るだけの男だった。  母は、私が物心ついた頃には既にいなかった。大きくなってから調べたら、とっくに本州に出て実業家と再婚していた。田舎で一時ちょっと変わっていた男に、勝手に勘違いしてのぼせ上がった若気の至りなぞすっかり忘れ去って、第二の人生を新しい家族と謳歌していた。珍しくもない、よくある話だ。  父は雑貨屋を営んでいた。趣味は穴掘り、というより鉱石集めだった。しかも金とか宝石とかじゃなく、その辺の誰も興味を示さないような石ころを並べてみて、常人ならまず理解できない凡石の違いと尊さについて、長々息子に語ってみせる――そういう男がトバイアス、そして私の父だった。私にくれたカメラだって最初は彼の鉱石用だった。     
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