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数百年前、島で実際に金がたくさん採れた頃なら格好もついたかもしれないが、すっかり掘り尽くされて、古い採掘の様子が観光地の見世物化しているような現代じゃ、穴掘り野郎なんか相手にもされない。
お日様の下で日々海にこぎ出す野生のロマンチストには特に、目障りで仕方なかったのだろう。
これまた珍しくもない、よくある話だ。
私たちは長らく、大勢の秩序のために消費される側だった。
学校で物がなくなることが普通だと思っていた。だからますます誰もほしがらないような物ばかり家に残った。
無関心と悪意、どちらも経験した身としてはどっちがマシだなんて比べる事も馬鹿らしい。どっちもほどほどに嫌で、精神を蝕む。
けれどNは、そんな鬱屈した負け犬共の密やかな穴蔵にやってきて、ぐるりと辺りを見回すと人懐こい笑みを浮かべた。
「やあ。ジョナサン・ランバートだ。ジョーイと友達になって、案内してもらったんだ。ここ、いい所だね。しばらくいてもいいかな? 車で暮らしているから、泊める場所がほしくて。お礼に毎日コーヒーをご馳走するから」
片手を差し出された父、トバイアスは不機嫌そうな、いかにも苦虫を噛み潰したような顔になった。
ただ、これは困惑しているだけなのだ。息子の私は知っていた。Nは父をいじめていた方の人間達に近かったから、染みついた苦手意識が顔を出したのだろう。
「……残念だが、苦いのは苦手なんだ」
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