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「そろそろ、時間だ。俺はここで失礼する」
ひとけのない裏道で田舎のヤンキーのようにたむろっていたところ、ライオンがそう言って大きな欠伸をこぼした。横になって眠るのかと思いきや、ライオンは立ったまま壁にもたれて目を瞑る。そうしてキラキラと夜闇に輝く光の粒子となって現実世界へと戻っていったのだった。
「真也は眠くねぇのか?」
「……うん。困ったことに」
「そうか」
そう。俺は困っている。まったくもって眠気がこない。俺に声をかけてくれたチャチャは随分と眠そうに瞼をこすっていると言うのに。この世界にやってきて、俺は歩きどおしだ。足も疲れたし、腹も減った。それなのに、眠気だけはいっこうに訪れる気配がないのである。
「なあ、チャチャ。そう言えば、飯は食わないのか?」
眠そうに目をこするチャチャにあえて声をかけたのは、少なからず胸の中にある不安からだった。今、チャチャが現実世界へ戻ってしまったら、俺はどうすればいい? 本心は、誰かにその答えを教えてほしくてたまらない。が、俺の不安そうな姿を見せて、心配をかけたまま現実世界には戻らせるわけにはいかないと、なけなしの飼い主心が訴えるのだ。
「んー? 腹が減ったら起きる。それから飯食って……んでまた、寝る」
端的な説明だったけれど、俺への返答はそれで充分だった。彼女たちは、こちらの世界で食事をとる必要がないということだ。そりゃそうか、と思う。だったら俺も、腹が減ったら起きるのか? そうすれば、現実世界に戻れるのか……?
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