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 トラはそれ以上、チャチャの交友関係について深くは話さなかった。けっして話題を避けたわけではなく、道を歩く友達を見つけて話を中断し、駆けだして行ったのである。俺はそんなトラの楽しそうな背中を見つめながら、おそるおそるクロへと問いかけた。 「あのさ、ライオンとかって……大丈夫なのか? 野生のやつだったら狂暴なんじゃ……。チャチャに限ってないとは思うけど、いじめられてたりしないよな……?」  「親バカ」と言ったクロの声は少しだけ笑っていたように思う。 「あのチャチャがいじめられるわけがないでしょう? 強いのよ、彼女」  クロの口ぶりからするに、この世界でのチャチャの生活についても知っていることがあるようだった。俺だって、チャチャが強いことは知っている。いや、強そうなことは知っている。不安げな表現しかできないのは、チャチャが強いのは家の中だけの話だからだ。  外に出したことのない家猫が、こうして様々な種類の動物たちの中にまざって強さを誇示したところでたかが知れているだろう。野生動物には敵いやしないことくらい、考えなくとも分かる。  それにチャチャは、今ではふてぶてしい女王様のように成長したが、俺が拾ったころは掌に乗っかるくらいの小さな小さな猫だったのである。親に捨てられたのか、迷子になったのか、詳細を知ることはできないが、とにかく、朝からニャアニャアと鳴き声が聞こえていた日。仕事から帰ってもその声はまだ聞こえていて、朝に比べればずいぶんとか細く弱くなってしまったものだから、俺はその声の主を探したのだ。そこにいたのが、チャチャだった。  インターネットで、ミルクの飲ませ方や、トイレのさせ方を調べた。それくらい小さかったのである。小さかったと言うよりは、幼かった。生後数日といったところだっただろう。子供を育てるというものはこんなに大変なのか。人の子供を育てるとなれば、理性や言葉があるぶん、もっともっと大変なのだろう。そう思い至ったとき、俺は自分の両親に人知れず感謝したものだ。
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