0人が本棚に入れています
本棚に追加
「強いって言ってもな……」
俺はチャチャの強さを疑っていた。なんというのか、実感がわかなかったと言うべきかもしれない。家ではあれほど傲慢で、気に入らないことがあればすぐに手が出るような女王様でも、手塩にかけて育てた愛猫なのだ。もしかしたら俺は、子供の強さを信じてやれないバカ親なのかもしれない。
「大丈夫よ。って、言うだけじゃ説得力がないわね。あなたを安心させるためだから仕方なく言うけど、この世界に野生動物は来られないの。厳密に言えば、まったく来られないわけではないのだけれど、野良犬や野良猫すらあまり見かけることはないわ」
俺がその理由を尋ねると、クロは恥ずかしそうに、ふいと視線を明後日の方向へとやってから答えてくれた。
「この世界には、人の愛情を受けた動物しか来られないのよ」
「大切にされているってこと。人が愛情を与えたと思っていなくても、動物たちが受けたと思えば来られるのだけれど。まあ、ここは動物たちの夢の中だしね。受けた愛情をはかるのは、各個の自己満足といったところかしら」
だから、時折、通りすがりの人に可愛がってもらった野良犬や野良猫がやって来ることもある。が、その受けた愛情を忘れてしまった時点で、ここにやってくるための権利を失ってしまうらしい。そこまで言われてやっと、野生動物が来られない世界であることを飲み込んだ俺だった。
「真也さん。そろそろ時間みたいよ」
クロは小さくため息をついてから、友達と手を振って別れているトラを見遣った。その姿はどことなく気だるげに見える。トラらしくない。俺が思わず、トラは大丈夫なのか、と不安げに告げると、クロは少しだけ目を見開いて、「あなたは他者の心配ばかりするのね」と目を伏せてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!