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「わあい! 真也の膝枕っ!」
視覚的には可愛い男の娘に、いや、女の子に膝枕をしてあげているという、ちょっと経験したことのない状況なのだが、トラからしてみれば、俺の膝の上で眠ることは日常茶飯事であり、その上、寝心地のいいところとして認識しているらしかった。
トラのふわふわの髪を撫でていると、俺の足に頭を乗せたトラの瞼がしだいに下がっていく。おもむろに、ベンチの隣へ腰をおろしたクロにはまだ眠気はないらしい。
よくよく考えてみなくとも、かなりのハーレム状態である。しかし、本能的に二人を愛猫だと認識しているせいか、興奮はない。むしろ、落ち着く。俺もこのまま眠ってしまいたかった。
「眠ったみたいね」
クロがそう言うと、同時にトラの体に異変が起こる。
俺の膝の上で眠っているトラが、キラキラと小さな光の粒へと変わっていくのだ。まるで空気中にトラが溶け出しているような気がしてきて、トラという存在が消えてしまうのではないかと思い不安になった。
そもそも、異変だと思ったのは俺だけであって、クロはなにごともないかのように「夢から覚めているのよ」と空を見上げた。トラを作っていた光の粒が、澄み渡った空へとなじんでいた。軽くなった膝が寂しくて、泣きたいような、笑いたいような、妙な心地に襲われる。
トラの体は筋肉質なせいか、チャチャとさほど体の大きさは変わらないと言うのに体重は重い。そんなチャチャも太ってきたから、今では良い勝負なのだけれど、肉球でぎゅっと踏まれたときの重みが全然違うのだ。
すっかりとトラの姿がなくなってしまった膝を見下ろし、そこで丸まって眠る猫姿のトラを想像する。きっと今ごろ、俺たちの家で起き出して、大きく伸びをしているころだろう。また手すりから落ちていなければ良いのだけれど。
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