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 そうして物思いにふけっていた俺だが、クロの真剣な声色にはっと思考を戻された。クロは「トラが居たから言えなかったけど」と、とても真面目な顔をして俺を見つめていた。 「やっぱり、ここに真也さんがいるのはおかしいと思うの」  そもそも、ここは人が来られる場所じゃないのよね、とクロは顎に指先をあてて言った。もしかして、私たちの幻想かしら、なんて突拍子もないことを言われたのだけれど、この世界が俺の幻想である可能性も大いにある。  この世界の常識は、どれもこれも俺に都合の良過ぎるものばかりなのだ。動物が眠っているときに見る夢の中にいる設定、愛情を受けた動物しか来られないという設定。常識を設定という言葉に置きかえてしまえば、流行りの転生ものライトノベルに似ている気しかしない。だからなのか、俺はずいぶんと楽観的だった。 「そんなに深く考えなくてもいいんじゃねぇの?」  なるようになるだろ、とクロと心配を取り除くための言葉を吐き、その小さな頭を撫でてやったのだけれど、「私は真剣なのよ」と怒らせてしまった。  その仕草が別れた彼女によく似ていて、俺がクロの意志をなに一つくみとってやれていないことに気付かされる。そうして突きつけられた針は、風船のように膨らんでいた俺の自信に突き刺さり、それはへなへなと貧相な姿にまでしぼんでしまう。 「私だって、いつまでもここに居られるわけじゃないからね。私がいるうちに色々と考え……ふぁ、」  そう言って居る最中、クロの小さな口から欠伸がこぼれる。小さな舌打ちが聞こえたような気もしたが、俺はなにも気づかないふりをして「眠いのか?」と尋ねた。 「トラが私を起こそうとしてるのかも。もう一度、あなたに会うために眠りたいのだけど眠れないから、私に眠る方法でも聞きたいんでしょ」
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