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呆れたように吐き捨てたクロだが、その表情はどことなく優しげだった。トラがクロを慕っているように、クロもまた、トラを可愛い妹のように思っているのかもしれない。
「眠いなら、眠っていいぞ?」
「でも、あなたが一人になるわ」
「俺だって、現実世界で目が覚めればここから居なくなる。はずだろ?」
「その可能性が、薄いから……心配しているの、だけど……」
告げている間にも、クロは何度も欠伸を噛み殺し、それでも彼女を襲う眠気には抗え切れないらしい。告げられた言葉の詳細が気になるところだが、言い終えたクロはすっかりと瞼を閉じてしまっていた。
「心配してくれてありがとな。おやすみ、クロ」
現実世界に戻れる可能性が低い。クロはどんな根拠があってそんなことを告げたのだろうか。光の粒になっていく彼女を見遣りながら、俺は胃の中にたまっていくモヤモヤのようなものを吐き出すべく長い息をついたのだった。
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