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低い、威嚇をするような声だった。
緑色の髪、耳には大小のピアスが連なっている。人相の悪い男が俺を睨みつけている。その特徴的な瞳は、ワニを連想させた。瞳だけではなく鋭いキバも。俺の予想が外れていたとしても、けっして、温厚そうな動物だとは言い難かった。
「まさか、こんなに早く見つけられるとはなあ!」
そう言ってゲラゲラと笑ったのは、ワニとともにいた銀髪の男だった。こちらもまた、鋭いキバを見え隠れさせている。風貌だけで判断するならば、狼。彼らは紛れもなく肉食動物である。それだけは分かった。
頭は冷静に状況を判断しているが、顔は真っ青。血の気がひていた。指先が震えて、口の中がからからに乾いて、悲鳴どころか指先一つ満足に動かせない。恐怖が心臓をぎゅっと握りつぶしているようだった。
「さっさと立て」
腕を掴まれ、引き上げられないように身構える。が、ワニの力は強かった。俺が必死に抵抗したところで、片手で容易に持ち上げられてしまったのだ。引っ張って行かれるのではない。かつがれて、俺は連れ去られている。
人さらい……? なんのために? もしかして、俺は彼らのエサだと認識されているのだろうか? いや、でも、彼らは確かに「人間だろ?」と聞いてきた。なぜ? 俺はなぜ、連れ去られている?
ばたつかせた手足はいとも簡単に抑え込まれ、わずかな抵抗すらもできやしない。俺はいったいどうなってしまうのだろうか。ワニと狼はなんだか陽気に鼻歌などを歌いながら、そのまま堂々と町中を歩いていた。
周りの視線が痛い。
怯える目、不思議そうな目、トラのように興味をひかれているらしい目もあった。
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