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「ほら、新しい座椅子。カッコ良いだろ?」  そう言って、トラに座椅子を見せびらかせば、トラは「すげーすげー」と言わんばかりに、座椅子の周りをぐるぐると回っていた。何度か俺の足を踏んでいることには気付いているのだろうか。トラは猫のくせにのろまだから、ときおり足をすべらせて転がりそうで目が離せなくなる。  そんな中、俺は扉の隙間からジっとこちらを見つめる視線に気づき、「クロ」と名前を呼ぶも反応はない。怯えているのか、不審がっているのか……。片目が見えないせいか、クロは臆病で慎重な性格をしている。  そこへ、尻尾を揺らめかせながら悠然と歩いて来たチャチャに、止める間もなく爪を研がれてしまったことは言うまでもない。物怖じしない上に、ボス気質のチャチャらしい、豪快な爪研ぎであった。  こんなふうに、俺の生活はいつも、猫たちを中心に回っている。  だから、猫の話をするなと言う方が難しい。  しかし、ただ、猫たちの話をするだけだ。彼女よりも猫を優先したことなどない。いや、そんな状況に陥らなかっただけの話であって、猫がケガをしたと聞けば、デートを放り出して家に帰っていたかもしれない。よくよく考えなくとも、遅かれ早かれ彼女にはふられていたのだろうと思う。愛でている猫が理由でふられるなんて俺らしいじゃないか。と、自分に言い聞かせる。  弟の祐二は、猫のなにが良いの、と顔をしかめて聞いてくることがあった。玄関に迎えにも来ないし、懐いてもくれないし、ソファはボロボロにされるし。ぜったい犬の方が可愛い。  そう言った祐二は、犬派の父と結託して一匹のコーギーを飼っていた。名前は『ヒジキ』。おバカだが、祐二の望んでいた愛嬌はたっぷりと持ち合わせている可愛いやつである。
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