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自室で過ごしていると、夕食ができた、と母親に呼ばれた。
リビングから、ヒジキの鳴き声がする。散歩から帰って来たのだろう。
廊下に出れば、チャチャがお気に入りのフクロウを――あれは、俺がフクロウ園のお土産で買って来たフクロウの人形だ。テニスボールより一回りくらい小さいフクロウを器用にくわえ、わがもの顔で俺の部屋へと入っていった。チャチャは相変わらずマイペースと言うのか、なんと言うのか……。まるで、傲慢な王様を見ているような気分になる。いや、メスだから女王様だな。
リビングに向かうと、トラが空いた席に腰をおろし、一緒に食事をしようと言わんばかりに待機している。トラが座っている席は、祐二が使っていた席だった。専門学校の寮に入って家を空けている祐二の席は、いつの間にかトラの場所になっていて、トラは、テーブルの上に食事が並び始めると一番に席につき、食卓準備の一部始終を見守ることが日課となっているらしかった。
「トラのご飯はこっちよ」
そう言いながら、母親が猫たちの缶詰を空ける。トラは椅子から飛び降りた。トン、と肉球がフローリングをたたく音が心地いい。
「ヒジキの飯は?」
俺はコップにお茶をそそぎながら尋ねた。
「さっき食ってたよ。秒速で」
箸を持った父親が苦笑している。
ヒジキがご飯の入れ物にがっつく姿がありありと浮かんだ。食べ終わったあとの入れ物を綺麗になめてから、満足そうに尻をふって歩く後姿まではっきりと。しかし、猫たちが食事をしている間、ヒジキは寝床のオリに閉じ込められる。猫たちのご飯を食べてしまうからだ。普段は家中を自由に走り回っているぶん、ヒジキの寂しそうな鳴き声には心がしめ付けられる。
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