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「すぐに出してやるからなー」
と父親は言ってから、猫たちの食事が終わるころに扉を開いてやっていた。
「祐二も、たまには帰って来てやれば良いのにねぇ」
母親が、大人しくテーブルの足元でお座りをしているヒジキに言う。
「忙しいんだろ。授業が終わったら、学校にあっせんしてもらったホテルでバイトしてるらしいし」
「あら。祐二と連絡とってるの?」
「そりゃあ……。って、母さんは連絡してねぇの?」
「用がないからねぇ?」
ずいぶんと素っ気ない返事だった。けっして不仲なわけではない。関係は良好だ。むしろ、家族仲は良いほうだと自負している。きっと、この母親の放任加減が、家庭を良好に回しているのだ……と、俺は思っている。
「母さんも、たまには連絡してやれば? ヒジキが寂しそうだって」
「でも、真也が連絡とってるんでしょ?」
「そうだけど……」
連絡と言っても、ろくな連絡ではない。見たい番組があるから録画しておいて、だとか、漫画の新刊が出たから買っておいて、だとか、なにか頼み事がない限り、祐二は俺にも連絡をよこさない。まあ、俺に頼んでくるくらいだから、時間ができれば帰ってくるつもりなのだろう、と思っていたのだが……祐二から送られてきた最新のメッセージは、「頼んでた番組、DVDにして送って。ついでに漫画も」だった。
「料理を振舞ってもらえると思って、料理学校に入れてやったが……帰って来ないんじゃ、意味もないなぁ?」
父親の冗談めいたなげきは、同調したらしいヒジキの寂しそうな泣き声とともに、すっと空気になじんだ。きっと、祐二の不在を一番寂しがっているのはヒジキだろう。
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