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僕は彼女を知っている。
大通りを、男性と一緒に楽しそうに歩く女性。
僕は建物の陰から彼女を見つめる。
僕は彼女を知っている。
彼女の好きな色、食べ物、音楽、他にもたくさんのことを知っている。
彼女の住所、家族構成、親にも言えないような秘密も知っている。
僕は彼女を見続けていたのだから。
彼女の写真もたくさん持っている。
彼女の小学生、中学生、高校生、そして今に至るまでの写真をたくさん持っている。
僕は彼女だけを見続けていたのだから。
彼女の笑顔、泣き顔、怒った顔、他にもたくさんの表情を知っている。
彼女が一度だけ見せた、困惑と不信と嫌悪に満ちた表情は忘れられない。
僕は彼女にとって「赤の他人」だ。
彼女はいつも僕のとなりにいた。
幼い頃からいつも僕のとなりにいた。
幼い約束だったが、将来も誓いあっていた。
彼女は事故にあった。
幸いにも命は助かったが、「僕」の記憶を全て失っていた。
僕たちは「赤の他人」になった。
彼女は明日、となりにいる男性と結婚をする。
あの男性が彼女を幸せにできることは知っている。
僕は彼女を見続けてきたのだから。
僕は彼女の花嫁姿を見届けたら遠くに旅立つ。
僕の存在は彼女の幸せの邪魔になるから。
僕の役目はもう終わっていたから。
僕はずっと彼女を見守り続けてきた。
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