第10章 I Feel for You(心中お察しします)

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 資金調達に奔走中の秋は、アポを取り付けたVC(ベンチャーキャピタル)の担当者と、都内のホテルのラウンジで待ち合わせていた。  少し早めに着くよう動いて時間を確認したところ、約束の時間まではゆうに一時間以上あり、しかも、ちょうど昼時とあって、オフィス街はたくさんの往来がある。  それをぼんやり眺めながら、小腹が空いた秋は自分も何か入れようと、渡されたメニューを開いた。  高級ホテルのラウンジだけに、軽くつまめるものとなるとやはり、サンドイッチを選択するしかない。ほかはコースだったり、パスタやピラフなどけっこうガッツリめなのだ。  ミックスサンドイッチとコーヒーをオーダーしてノーパソを開き、プレゼンの流れをいまいちど確認する。秋にとって、こうした作業は馴れ親しんだもので、相手が誰であろうと基本うまくやれる自信はある。相手の反応が上々ならもう一歩切り込んで行くし、逆に芳しくなければ次を探すのみ――ビジネスの始まりはシンプルにとらえた方がいい。情の類は良くも悪くも、のちのちくっついてくるものなのだ。  いくぶん仰々しいプレートに、ちんまり盛られたミックスサンドとコーヒーが運ばれてくる。高級ホテルが出すサンドイッチだけにたぶんうまいのだろうが、正直、味などどうでもよく。相手が現れたら自分がとる行動を、サンドイッチを咀嚼しながら頭の中でおさらいする。そうこうしているうちに待ち合わせ時間がやってきて、前回の挽回ではないが、なかなかいい手応えを得た。  足取りも軽く、秋は家路に着いた。柊一は外出していて、テーブルには走り書きしたメモが留め置かれていた。  LINEでもSMSでもメールでも、連絡方法はいろいろあるというのに、手書きのメモが秋の心を柔らかくしてくれる。思わず笑みがこぼれる。
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