第1章 これまでの話譚

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 大学在学中から仲間と準備を始め、卒業後わずか二年でd:effective (ディー:エフェクティブ)というITベンチャーを起ち上げた。  ピックアップされたフリーワードや写真、映像などから、その人好みのスタイルを自動解析し、さまざまなシチュエーション――ホームパーティから結婚式の三次会まで――で、BGMやBGVの編集と空間演出、ウケのいいメニューとインスタ映えする盛り付け、その場のボルテージをアップするアトラクション等を提供・サービスする会社だ。  ユーザーは提供された演出例を、ただ実行すればいい。  これがあれよという間に軌道に乗り、秋の人生はあたかも順風満帆に見えた。  ところが、サービスの成功に目をつけた競合大手の敵対的買収にあい、会社はわずか四年余りで倒産してしまった。  これぞまさしく、天国から地獄へのスピード転落である。  そこからの秋の没落ぶりは、身近な人間を巻き込んでの苛烈極まるものだった。  迷惑をかけている自覚は当人にもあった。  だが、心痛を薄膜で覆っただけのいかにもな表情で心配されるとよけいに苛立ってしまい、心遣いや優しい申し出を無下にした。  俺はなんて酷いやつなんだ。自分がこれほど弱い人間だったとは――  いま思い出しても、顔から火が出そうになる。
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