第3章 悪魔(Diablo)

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第3章 悪魔(Diablo)

 幼稚園ではつねに友里絵の視線を感じていた。  ふと気づくと、彼女が自分を見ている気がするのだ。  外で遊んでいるときや友だちと話しているとき、お弁当の時間やお昼寝の時間、みんなで歌を唄っているときやクレヨンで絵を描いているとき――よくわからないけれど、得体の知れない何かが背中を刺すような感覚があった。  男の子と女の子が入り乱れてダンスの練習をしているときなどは、特にそれが強まった。  友里絵ちゃんは年長組だから、年少組の秋をずっと監視していることなどできないはずなのだが、どうしても彼女を感じずにはいられなかった。  秋はちょっと怖くなって、自分の左薬指に巻かれたセロテープをため息まじりに指で触れてみる。  お誕生会から戻った秋の指にセロテープがグルグル巻かれているのを見た母親は、「心中立て? あらあら(笑) おしゃまさんね、友里絵ちゃんは」などと楽しそうに笑いながら、お風呂で濡れて取れてしまっては大変と、慎重に秋の左指からセロテープリングを外してティッシュに包んだ。 「この引き出しにいれておくわね」  捨てたかったが、捨てたら何を言われるかわからない。秋は浮かない顔で黙ったままコクリうなづいた。
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