3.バー「レッド・ルージュ」

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 ぼくはカウンターの向こう側へ回ってユニコーンのそばからアンのためのグラスを出してあげ、冷蔵庫を漁って自分用のオレンジジュースを取り出した。本当は温かいミルクが飲みたいところだけど、店と住居を兼ねたこの建物にはコンロがカウンターの中の一か所だけだ。パパがアンに慰められて過ごす時間を邪魔するのは申し訳ない。恋人と喧嘩してどんなにつらいかなんて、ぼくにはわからないんだもの。どんな時でもパパが元気になる魔法の言葉でもあればよかったのに。 「ぼく、二階に居るから用事があったら呼んでね」  ありがとうとグラスを受け取ったアンがお酒を作るところにそう告げて、ぼくは店の片隅に行くと、消えていたストーブに火を点けた。  二階に上がる階段へ向かおうとして途中で引き返し、パパのところへ寄る。真新しい毛皮のマフラーと手袋を外した。マフラーはパパの大きいのに丸く縮こまってしまったみたいな肩にかけてあげ、手袋はカウンターに突っ伏した頭のそばに置いておく。早く元気になってね。クリスマスにサンタクロースがプレゼントを靴下へ入れておいてくれるみたいに、ぼくの気持ちも手袋の中をいっぱいにして、パパへ届けばいいなと願った。
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