2.ケツ毛のアン

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ

2.ケツ毛のアン

 しばらくして戻ってきた店員からロゴの入った紙袋を受け取ったアンは、手首のぐるりに毛皮のついたグレーの手袋をぼくにくれた。そのデザインはアンがしているレースの手袋と少し似ていて嬉しい。けど、どう見ても大人の女性用のもので、指の長さがちっとも合いそうにない。ぼくはしばらくためらったけど、結局それを両手につけた。だってアンがにっこり笑って、さあどうぞとばかりに差し出しているんだもの。断るのは忍びない。 「大丈夫よ、手なんてすぐ大きくなるわ。フリッツは男の子なんだもの」  余った手袋の指先がペコンと折れ曲がるのを見つめるぼくに、アンはそう言って目を細めた。崩れた化粧でいつもはないシワができる。普段のとても美人なアンの顔とは違っているけれど、ぼくはそれも好きだと思った。剥げかけたマスカラも、かすれて伸びたアイライナーも、にじんではみ出た口紅も、ほつれて垂れた後れ毛も。 「ねえ、これからどうするの」  どこか軽やかなステップでアンが店を出るのを追いかけて、ぼくは訊いてみた。 「ママの店に行きましょ。ハンカチを買ってあるの。プレゼントするわ」  そう答えて、アンは大きな紙袋を顔の高さにあげて軽く振った。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!