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「あら、坊やも? それはまだ少し早いんじゃないかしら」
アンは一瞬、顔をくしゃっとさせてから、笑い顔を作ってそう言った。「濡れちゃったわね」と呟きながら、さっき払ったはずのぼくの服についた雪をまた払う。
「ううん、ぼくは喧嘩しないよ。喧嘩してるのはパパ」
ぼくはそう教えてあげた。アンはぼくの服を払うのをやめ、とても納得したという顔を向けて頷く。
「なら後で一緒にお酒を飲みに行かなくちゃね。でもその前に坊やに付き合ってもらおうかしら」
言って、アンはウィンクした。
喧嘩中のパパのジャマにならないよう、ぼくが店を抜け出してほっつき歩いていたのを察してくれたみたいだ。さっきとは逆向きに差し出されたアンの手を、ぼくはご厚意に甘えることにして握り返した。薄く雪の積もる道を、手を繋いで歩き出す。どこに向かうのか尋ねると、アンはお買い物しましょうと答えた。
「大事な坊やを汚したまま帰したんじゃママに叱られちゃうわ。素敵なお洋服を買ってあげる」
アンの言う『ママ』はぼくのパパのことだ。
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