2.ケツ毛のアン

8/9

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
 でもパパはアンのそういうところがあまり好きじゃないみたい。「節操なしの泥棒猫!」って怒鳴っているのを聞いたことがある。けど仲が悪いわけではなくて、パパが恋人と別れて落ち込んでいると、アンはよく慰めに来てくれる。パパが付き合う男の人より、アンの付き合う人のほうがマトモそうなので、パパはアンに恋人を紹介してもらったらいいと思うのだけど、そういうものでもないようだ。好みというのがあるらしい。パパはとことんめんどくさい。  比較的大きい通り沿いに歩いて、アンはぼくを連れてガラス張りの立派なお店に入った。  中は目がチカチカするくらいに眩しい。見上げると、大きなシャンデリアが天井からぶら下がっていた。琥珀色に輝いて、蜜色の光を四方八方に散らしている。シャラシャラとクリスタルのぶつかりあう音が、今にも聞こえてくるみたいだ。届きそうな気がして、ぼくはアンと繋いでいないほうの手を伸ばしてみた。全然遠い。 「あらやだ。光りものなんか欲しがっちゃって、坊やも一人前にこの町の子ね。肩車してあげましょうか」  アンがそう言ったので、ぼくは慌てて手を引っ込めた。いくらまだぼくが小さいと言ったって、細くて綺麗なアンに肩車なんてできそうにない。落っことされるのはごめんだ。パパにだったらねだってみてもいいけど。  それにぼくはシャンデリアが欲しかったのでもない。ちょっと触ってみたかっただけだ。もしかしたら光のぶつかり合う音が、粒になってクリスタルの結晶を産むんじゃないかって、そんな気がしたから。加えて、キラキラしてとてもあったかそうな、でもひんやりと硬そうな、なんだか不思議な輝きだったから、確かめてみたいと思っただけ。     
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加